Lyric by ryo
「春嵐の夜想」


窓というものがあるなら全てを閉ざし
トタン屋根から滴る雫をマグカップで受け
部屋の片隅の乾いた床に足を抱えて踞る
路上に残した足跡と人並みに奏でたUTAは流れただろう

吹き荒ぶ南風は一時の寒さを和らげて
やがて顔を見せる大陸の高気圧の冷気を忘れさせてくれる
裏地のすり切れた革のブルゾンの左ポケットにある2枚のアルミコイン
人生をかけるには1枚足りない

通りすがりの電気量販店の液晶テレビが
太陽系天気予報を映していた
今日の木星は風速5700mの嵐だそうだ
でも問題は今日の雨 傘もなければ行くあてもない

まだ夜明けには少し間があるが
雨音は止んで静かに時が流れる
時折思い出したかのように風が吹き
軋む戸の音に老犬が怯える

暗闇の向こうに塗装の禿げたガス欠のTOYOTA
ジーパンにつけていた鍵が見あたらない
車で寝ていた男は死んだ
車を蹴られて喧嘩になって後日刃物で刺し殺された

貧困の中で手に入れた家だったが
家は何も生み出さなかった
それどころか生活は前よりひどくなった
結局家も手に入れたわけじゃなかったことに気がついた

仮の宿とはよく言ったものだ
現身も所詮その程度と思えてくる
かくたる思想があるわけでもなく
責任を誰に問うわけでもない

新聞配達は素通りするバイクの音で
時間だけは教えてくれる
残りのコーヒーを飲み干した
最後のパンの一欠片を老犬に与えて


窓というものがあるなら全てを閉ざし
トタン屋根から滴る雫をマグカップで受け
部屋の片隅の乾いた床に足を抱えて踞る
路上に残した足跡と人並みに奏でたUTAは流れただろう

裏地のすり切れた革のブルゾンの左ポケットには2枚のアルミコイン
人生をかけるにはあと1枚が足りない


9700度9
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